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 国内大手デジタル広告代理店のChatGPT活用事例10選|導入の注意点も解説

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AIによる業務効率化は、あらゆる業界で日に日に浸透しています。もはやビジネスには欠かせない存在として日常的に活用している業界もあり、デジタル広告代理店も例外ではありません。

現にデジタル広告代理店では、文字を考えたり書いたり、またLPや動画広告の全体構成を考案するなど、クリエイティブな作業は多岐にわたります。これらをAI技術に任せて自動化することで、生産性が上がり重要タスクへ時間を投下できるなどのメリットが得られます。

今回の記事では「国内の大手デジタル広告代理店のChatGPT活用事例」を10選ご紹介すると同時に、導入の際の注意点、今後の可能性なども見ていきます。名だたる大手の広告代理店がどのようにChatGPTを導入・活用しているのか、ご参考のうえ導入のヒントとしてお役立てください。

ChatGPTの概要

ChatGPTは、アメリカのIT企業「OpenAI」が開発・運営を行う、高性能チャットサービスです。

ChatGPTは大量のテキストデータを学習し、高度な機械学習と自然言語処理の技術を組み合わせています。そのため言語理解能力に長けており、まるで人間と対話を行っているかのような自然なテキストを生成してくれることが主な特徴です。

その利便性とシンギュラリティが注目され、公開からわずか2ヶ月で全世界のユーザー数が1億人を突破しました。その中の利用者のトラフィックシェア(割合)を見ても1位のアメリカ、2位のインドに次いで、日本は3位となっています。

参考:野村総合研究所が日本のChatGPT利用動向を発表

ChatGPTは紛れもなく、日本国民に対してAIをより身近なものにし、生産性や利便性を飛躍的に向上させた一例といっていいでしょう。

広告代理店の課題

広告代理店が抱えている課題としては、一般的に以下のようなものが挙げられます。

  • 各種書類や資料の作成に時間がかかる
  • 競合分析や調査などのリサーチ作業に時間がかかる
  • ユーザーとのコミュニケーション方法が多様化している
  • 最適な広告の打ち出し方が難しくなっている

サービスや商品の設計書やプレゼン資料などの作成は、まだまだ人の手で行っている企業が多い傾向にあります。競合分析や調査などのリサーチ作業も同様です。

また現代では、人々のライフスタイルや価値観の多様化が進んでいます。成果を出すことも一筋縄ではいかなくなってきているので、広告の打ち出し方にも一工夫が求められているのが現状です。

ChatGPTで解決できること

デジタル広告代理店のChatGPT活用によって実現できることは、以下のように多岐にわたります。

  • 各種書類および資料作成の自動化・効率化
  • プログラミングを用いたデータ分析および競合分析
  • ユーザーとのインタラクティブなやり取りの実現
  • 新しい企画のアイデア出し・構成立案の自動化
  • SEO対策の最適化
  • デザイン・動画広告制作の自動化

前述で課題として取り上げた書類や資料、プログラミングを用いた競合分析やデータ解析はChatGPTの得意分野です。

また「インタラクティブなやり取りの実現」とは、主にサイト内やサービスに埋め込むチャットボットのことを指します。ユーザーはSNSやチャットツールに切り替えることなく問い合わせが可能になり、ユーザビリティ向上に役立っています。

そして、デザインや動画広告作成の完全自動化に加え「0→1で新しくアイデアを出す」などの作業も得意です。クリエイティブな作業が苦手な方にとって欠かせないツールとなっています。

【国内大手】広告代理店のChatGPT活用事例10選

ここからは、日本国内大手の広告代理店のChatGPT活用事例を、以下のとおり10選に絞ってご紹介します。

  • 株式会社サイバーエージェント
  • 株式会社電通
  • 株式会社博報堂
  • ADKホールディングス
  • DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社)
  • ジェイアール東日本企画
  • 株式会社大広
  • 株式会社デジタルシフト
  • 株式会社セプテーニ
  • 株式会社テー・オー・ダブリュー

株式会社サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェントは、2023年4月にChatGPTの機能を活用した「ChatGPTオペレーション変革室」の設立を発表しました。

「ChatGPTオペレーション変革室」とは、広告オペレーションにかかる作業時間の短縮と、さらなる業務効率化を目的とした部署のことです。

株式会社サイバーエージェントはこれまでも、広告オペレーションの効率化のため、さまざまな取り組みを行ってきました。しかし、効率化の実現のためには以下のようなタスクが必要となり、業務効率化の実現は難航していたといいます。

  • こまめな広告配信設定
  • 効果に合わせた運用の改善
  • 膨大なレポート作成業務

この背景から、最終的な作業時間は月間約23万時間にものぼっているのが現状です。

サイバーエージェントはこの問題を解決するために、「ChatGPTオペレーション変革室」を設立しました。現在、月間で広告オペレーションにかかっている総時間約23万時間のうち、30%(約7万時間)の削減を目標に定めて運用を行っています。

参考:ChatGPTで広告運用の実行スピードを大幅短縮する「ChatGPTオペレーション変革室」を設立

株式会社電通

株式会社電通は、「社員全員がChatGPTを利用できる体制」を導入しています。具体的には、「ChatGPTを含むAIツールが使えるAPIアカウントを、社員全員が使えるようにした」ということです。

これまで電通では、上記のAPIアカウントは最新技術に精通したエバンジェリストのみ、広告文やコピーの生成の用途で取り扱うことが許可されていました。そのため、それ以外の社員は、AIに関する知見や理解をなかなか得られないことが課題でした。

そこで社員全員がAIツールに触れられる社内環境を作ることで、全員が情報共有を通じ、AIへの知見や理解を深めることを実現しています。また、さらなる業務の効率化はもちろん、最新AI技術活用による効果的な提案力の向上を図っています。

参考:電通デジタルの全社員が生成AI「ChatGPT」の利用開始、APIアカウントを社員に付与

株式会社博報堂

博報堂テクノロジーズは2023年5月、「ChatGPTソリューション開発推進室」を発足しました。

「ChatGPTソリューション開発推進室」とは、博報堂の開発エンジニアを核とした部署のことです。ChatGPTやAzure OpenAI Serviceといった、あらゆるAIサービスを活用し、業務効率化やDX課題解決につなげることを目的にしています。

「ChatGPTソリューション開発推進室」の活動内容は、主に以下の3つです。

  • プロンプトエンジニア300名体制による、グループ各社向けの相談窓口と現場支援の提供
  • ChatGPTの活用促進に向け、グループ全体の共通基盤の構築
  • 自社内ヘルプデスクにおける、AIサービスのAPI活用実験と実用ノウハウ蓄積

とくに相談窓口と現場支援は、グループ各社の社員全員が対象です。そのため、グループ全体の教育推進が実現することで、AIリテラシーの底上げが期待されています。

参考:博報堂DYグループの博報堂テクノロジーズ、「ChatGPTソリューション開発推進室」を発足。

ADKホールディングス

ADKホールディングスは2023年6月、ChatGPTの運営元「OpenAI」社の大規模言語モデルを用いたチャットボットを開発し「Microsoft Teams」で公開しました。

このチャットボットの公開によって、これまでの課題でもあった以下が実現可能となっています。

  • プランニング業務の高度化
  • クリエイティブ部門におけるブレインストーミング支援
  • エンジニア部門におけるプログラムコード作成
  • バックオフィス業務の自動化・効率化

さらにAKDがとくに注力している「顧客データ&インサイト」「顧客接点マネジメント」「顧客体験デザイン」に柔軟に対応できる環境も整備のうえ、グループ全体に公開しました。

社員全員が利用できることが大きな特徴で「社内の形式や暗黙知を取り込みながら、ADKグループらしさ溢れる独自ツールとして拡張させる」ことを目標として掲げています。

参考:ADKグループ、全社員に「Azure OpenAI Service」活用のボット公開–プランニングへの活用など図る

DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社)

DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社)は、「デジタルマーケティング支援ソリューション」を開発し、社内運用を開始しています。

デジタルマーケティング支援ソリューションとは「ChatGPTのような生成AIサービスがもつ課題」を解決するために、DACが独自に開発したAIシステムのことです。

生成AIサービスがもつ課題とは、主に次のようなものが挙げられます。

  • プロンプト(命令文)に含まれる機密情報の取り扱い
  • 社内でのプロンプトテンプレート共有の仕組み作り
  • 専門知識への対応

このシステムの開発と同時に、DACでは「生成AIをより効果的に活用するための専門チーム」を配備。社内全体のAIリテラシーを促進するため、必要な情報の整備や利用者への教育などが行われています。

またDACは将来的に、この「デジタルマーケティング支援ソリューション」を用いた、新しい広告運用サービスの提供を視野に入れています。

参考:DAC、生成AI技術を用いたデジタルマーケティング支援ソリューションを開発、社内検証を開始

ジェイアール東日本企画

JR東日本グループの総合広告代理店である株式会社ジェイアール東日本企画は、2021年8月に「Beacon Bank」を導入しています。

「Beacon Bank」とは、ユーザーのリアルな行動データを蓄積・加工・分析できるプラットフォームのことです。導入によって、以下のようなことが実現できます。

  • 鉄道利用者データ活用による将来予測
  • 交通広告およびスマホ広告の連携・最適化
  • 適切な広告運用法による利用者とのコミュニケーションの実現

このプラットフォームの仕組みは、利用者の「位置情報」を活用していることが大きな特徴です。他のユーザーと比較して移動方向やスピードなどの規則性を分析し、共通点をあぶり出して最適な広告立案を行います。

また本プラットフォームは、配信後の広告に対するリアクションもデータとして蓄積できるため「イベントやキャンペーンに対しどの程度の効果があったか」の可視化も可能。分析によってより効果の高い広告立案が可能になるため、DX促進の観点でも有益です。

参考:鉄道路線利用者データを活用した新たな取組みを開始します

株式会社大広

株式会社大広は2023年10月、オーダーメイドビジネスウェアを扱う企業「FABRIC TOKYO」と共同し、自動対話プログラム「コーダイ by FABRIC TOKYO」を導入しています。

「コーダイ by FABRIC TOKYO」は、一言でいえばLINE上で動くAIチャットボットです。LINE公式アカウントのトークルームにて、AI店舗スタッフとして顧客との自動対話が可能となっています。

顧客との対話をデータとして分析し、商品やサービスに対する理解を深め、ロイヤルティの向上や購買行動の推測を行うことなどが主な目的です。

参考:大広×FABRIC TOKYO 顧客一人ひとりに合わせた自動対話AI 「コーダイ」 稼働開始

株式会社デジタルシフト

株式会社デジタルシフトは2023年8月、株式会社オプトと共同で「AIイノベーション推進室」を設立しました。こちらは、ChatGPTを含む生成AIサービスを用いた、デジタルマーケティング支援ツールとなっています。

導入の理由は「マーケットトレンドを把握したコンテンツ戦略立案、ユーザー体験の向上の観点から、生成AIに大きな可能性を感じたから」だといいます。

本ツールの目的には、大きく「生成AIを用いたソリューションの開発」と「専門知識を交えた生成AIの適切な運用ノウハウの提供」の2つを掲げています。

「AIイノベーション推進室」の具体的な支援内容は、以下のとおりです。

  • ChatGPTによるシナリオ作成
  • ChatGPT×機械学習による口コミ分析

あらゆる情報を学習させたChatGPTモデルにより、高品質なシナリオが自動で生成できるようになったうえ、作業時間を従来の7分の1に短縮することに成功。また口コミ分析の所要時間も従来の10分の1と、圧倒的な効率化を実現しています。

参考:デジタルシフトとオプト、ChatGPTなどの生成AIを活用しデジタルマーケティングを支援する「AIイノベーション推進室」を設立

株式会社セプテーニ

株式会社セプテーニは2023年4月、SOUNDRAW株式会社と共同で「Odd-AI Sound」を開発しました。「Odd-AI Sound」とは、動画広告のクリック回数向上につながるBGMを、AIが自動生成してくれるツールです。

セプテーニは過去にも、CTRにつながる要因を可視化する研究活動に注力しており、その解析結果をもとに「Odd-AI」や「Odd-AI Creation」といったAIツールも独自に開発してきました。それらによって得た成果をさらに最大化させることが「Odd-AI Sound」が開発された背景であり、目的となっています。

「Odd-AI Sound」の活用で得られるメリットは、大きく以下のとおりです。

  • 広告クリック回数を最大化できる
  • 動画検証コストを削減できる

動画の内容や商材、配信メディア情報などをもとに広告効果の高いBGMを自動生成してくれるため、検証にかかるコストを抑え、成果の最大化を実現しています。

参考:セプテーニのAIを活用したディスプレイ広告クリエイティブ制作メソッド 「Odd-AI Creation」がサウンド(BGM)領域にも対応開始

株式会社テー・オー・ダブリュー

株式会社テー・オー・ダブリューは2023年6月、DeNAと共同で「Promotion AI LAB」を発足しました。「Promotion AI LAB」は、プロモーション事業の高度化・複雑化・高速化に向けた取り組みのことです。

テー・オー・ダブリューが担当するプロモーション事業は、以下のように領域が拡大しているのが現状です。

  • デジタルコンテンツの開発
  • オウンドメディア・SNSアカウント運用
  • デジタル広告および動画制作

こういった複雑化や高度化に柔軟に対応するべく、ゲームやスポーツなどの多彩な分野での実績を誇るDeNAと連携。さらなるプロモーション業務アップデートの実現を目指し、本プロジェクトが立ち上がりました。

現段階での主な活動内容は、以下のとおりです。

  • 「AI×プロモーション」をテーマにした新しいAIサービスの開発
  • AI言語モデルを活用したSNS運用
  • SNS投稿におけるクオリティとスピードを向上する支援ツール開発

SNS投稿や運用にかかる時間を50%短縮することを目標として掲げています。さらに将来的には、SNSマーケティングサービスの開発も視野に入れています。

参考:TOW、DeNAと共にプロモーション領域におけるAI技術の活用を推進するプロジェクト「Promotion AI LAB」を発足

広告代理店がChatGPTを導入する際の注意点

広告代理店がChatGPTを導入する際、注意すべきポイントとして以下が挙げられます。

  • 誤情報に気をつける
  • 機密情報や個人情報の取り扱いに注意する
  • コピーコンテンツによるSEOへの影響に気をつける
  • 著作権問題を考慮する

それぞれ解説します。

誤情報に気をつける

ChatGPTを業務で取り扱うなら、誤情報には注意しましょう。ChatGPTは、真実とは異なる情報を生成することが珍しくないためです。

ChatGPTは今後も精度を上げていくことが期待されているものの、現段階では「情報の正確さ」において、まだまだ課題が残っています。

いくら便利とはいえ依存・過信せず「この情報は本当に合っているか」を、自らの手でもう一度確認することが大切です。

機密情報や個人情報の取り扱いに注意する

ChatGPTを業務で取り扱うなら、機密情報および個人情報の取り扱いには、細心の注意を払わなければなりません。

たとえば、ChatGPTに社内の機密情報を含む質問を投げると、その質問内容がデータとして学習されます。そうなると、他の第三者への回答に使われてしまう可能性もゼロではなくなってしまうためです。

ChatGPTに学習を行わせないための「オプトアウト申請」は存在しますが、その申請が必ずしも通るとは限らず、通ったか否かの確認方法もありません。

自社独自のAIシステムなどでない限り、社内の機密情報および個人情報は、できるだけ入力しないほうが賢明といえます。

コピーコンテンツによるSEOへの影響に気をつける

ChatGPTで生成したテキストは、必ずしもオリジナリティに長けたものとはいえません。ChatGPTは、過去の学習データとインターネット上の情報を参照してテキストを生成しているため、それがコピーコンテンツとみなされてしまう可能性もあります。

コピーコンテンツとみなされると、たとえ故意でなくても悪意のあるサイトと判断されてしまうため、SEOの順位に影響を及ぼします。

ChatGPTが生成したテキストは、そのままコピペするのではなく、自分の言葉や文体に書き直すこと、そしてツールなどを用いてチェックすることも重要です。

著作権問題を考慮する

ChatGPTが生成したコンテンツが既存の著作物に酷似していると、権利侵害のリスクが生じる可能性があります。そのため、あらかじめ著作権侵害のリスクの対象にならないかを確認するなど、対策が必要です。

しかし、インターネット上には星の数ほどのコンテンツが存在するため、故意でなくとも被ってしまう可能性はあります。まったく被らないコンテンツを選定するのは困難を極めることも事実です。

テキストの場合はコピペチェックツールを活用したり、画像の場合はGoogle画像検索などでひととおり検索してみるのがおすすめです。やむを得ない場合には著作権者から許可を得るか、使用許可の範囲を明確にする契約をかわす必要も出てきます。

自社で著作権に関するポリシーやプロトコルを策定し、コンテンツ生成時の注意点として社員全員に周知するなど、リスクを最小限に抑える対策が重要です。

ChatGPTの今後の可能性

ChatGPTは今後、広告代理店業界において、さらに重要性を増していくことが期待されています。具体的には、以下のようなChatGPTの進化が挙げられます。

  • 書類や資料の作成の完全無人化。修正すら不要になる。
  • 撮影一切不要で、広告デザインの自動生成が可能になる。
  • タレントの起用も承諾さえ得られればOK。AIがタレント使用の広告を自動生成してくれる。
  • 動画広告もすべてAIが自動生成。コンピューター以外不要になる。

上記はあくまで推測ではあるものの、現代の進化のスピード感を見ていると、実現の可能性は大いにあるでしょう。

「人間がカメラや機材を用いて、物理的に撮影を行っているなんて考えられない。」「広告作成はコンピューターのほうが早いし、精度も高い。」と言われる時代は、そう遠くないかもしれません。

まとめ

広告代理店業界におけるChatGPT活用事例は、本記事で紹介したもの以外にもまだまだたくさんあります。

さらにChatGPTは広告代理店にとどまらずマーケティングや金融、また企業のみならず自治体など、さまざまな局面で導入され効率化に大きく寄与しているのが現状です。

ただ、導入に際しては機密情報や著作権リスクに細心の注意を払う必要があります。十分な下調べや事前対策を行い、ChatGPTの能力を最大限に引き出しつつ、事業に活用していきましょう。