広告運用の現場では、「ブランド名を含む指名キーワード」で広告を配信しているにもかかわらず、CPA(顧客獲得単価)が思うように改善しないケースが少なくありません。
本稿では、指名キーワードの効率悪化現象を“単語数”という切り口で分解・分析する手法を紹介します。さらに、実際にこの分析を適用して改善に至った運用事例をもとに、実践可能なステップと留意点も併せて解説します。
この記事を書いた人
植田富大
取締役
新卒でマーベリック株式会社に入社後、広告配信プラットフォーム「Cirqua」の立ち上げメンバーとして従事。流通金額は30万円→3億円規模まで拡大し、株式会社駅探へ売却。2020年7月に株式会社SGPへ参画、その後2024年に取締役に就任し、Webマーケティング事業部を管掌。またWebマーケティングスクールでは、2年間で500名超に対して、Web広告の授業を実施。
目次
なぜ“指名キーワード”でもCPAは高くなりうるのか?

一般的に「指名キーワード(ブランド名検索)」は、すでにブランドを知っている顕在層を捉えるため、CPA(顧客獲得単価)は低く抑えられる──そう考えられがちです。しかし、実際の運用データを見ると、むしろCPAが高いケースが少なくありません。
なぜ“本来は効率が良いはずの領域”でコストが膨らむのか。その背景には、検索意図の多様化やキャンペーン設計上の構造的な要因が隠れています。
第1部:構造理解
指名キーワード(ブランド名検索を含む語句)は、一般に顕在層を捉えやすいと期待されやすいですが、実際には以下の構造要因が影響します。ここでは、その代表的な3つの要因を整理します。
<1.検索意図の多様化>
ブランド知名度が高まるほど、「ブランド名のみ」で検索するユーザーの目的は多様化します。たとえば以下のように、購入検討以外の意図が多く含まれるようになります。
- 企業情報収集:「どんな会社だろう?」
- サイトアクセス:「公式サイトはどこ?」
- 最新情報確認:「最近何かニュースあった?」
これらの検索はCV(コンバージョン)には繋がりにくいが、クリックは発生するため、結果的にCPAを押し上げる要因となります。
つまり、「指名キーワード=購買意欲が高い」という前提が、ブランドの成長とともに崩れていくのです。
<2.複合語句の意図>
一方で、「ブランド名 + 何か語句(例:料金/評判/申込)」のような複合語句には、より明確な比較・検討の意図が含まれています。
- 「料金」→ 具体的なサービス選定を進めている段階
- 「評判」→ 他社比較・信頼性の確認段階
- 「申込」→ 実際の行動直前の段階
このように、複合語句は購買意欲が高い層を捉えており、CVR(コンバージョン率)が高くなりやすい傾向にあります。
にもかかわらず、「単一ワード」と同じ入札単価や広告メッセージで運用してしまうと、投資効率を損なうことになります。
<3.キャンペーン構造の影響>
単一ワードと複合ワードを同一キャンペーン内で運用すると、次のような現象が起きます。
- 意図の弱い検索(=CVRが低い)がボリュームを稼ぐ
- アルゴリズムがクリック率(CTR)を優先して学習
- 結果的に、CPAの悪化を引き起こす
つまり、意図の異なる検索語を同一条件で扱うこと自体がCPA上昇の構造的要因なのです。
この点を分解して可視化することが、次章(第2部)の分析アプローチに繋がります。
第2部:分析視点(実践Tips風)
実際の運用でこの構造を可視化するために、本稿では “単語数”というシンプルな分解軸 を導入します。単語数で検索意図を切り分けることで、「どの層に予算が偏っているのか」を定量的に捉えることが可能になります。
単語数で分類
| グループ | 検索語例 | 特徴 |
| 単一ワード | 「〇〇」 | ブランド名のみ。意図が幅広く分散しやすく、CVRが低めになりやすい。 |
| 複合ワード | 「〇〇 料金」「〇〇 申し込み」 | 検討意図がより明確で、購買意欲の高い層を含むため、CVRが高まりやすい。 |
この分類を行うことで、指名検索の中に潜む「成果のムラ」を構造的に把握できます。どの層に無駄な予算が流れているのか、どこに集中すべきかを可視化することが、後続の分析・改善ステップ(キャンペーン分割や入札調整)の出発点となります。
構造と分析の流れ(フローチャート)
指名キーワードにおける構造理解と分析視点の関係性を、下図のように整理できます。

この整理によって、「なぜCPAが高くなるのか」から「どこを調整すべきか」まで、一連の因果を体系的に把握できるようになります。
分析アプローチ:4ステップ

実際に運用現場で適用した手順を、分析フェーズ → 改善フェーズ に分けて紹介します。
🔧ステップ 1:検索語句データの抽出
CPAが高騰している原因が、どの検索語句にあるのかを大まかに把握しましょう。指名キーワードキャンペーンにおける 検索語句レポート を取得し、「どの語句」がクリックや転換(コンバージョン)を生んでいるのかを可視化 します。
💡注意点
転換(コンバージョン)ゼロの語句も傾向把握には有効ですが、ノイズが多いと精度を下げるため、たとえば「クリック10件以上」などの基準でフィルタリングするのが実務的です。
🔧ステップ 2:単語数で分類
次に、抽出した検索語句を先ほどのグループに分類します。
この分類により、どのタイプの語句がCPA高騰に影響しているかを可視化し、後続の改善施策(キャンペーン分割や入札調整)の判断材料を作ります。
| グループ | 検索語例 | 特徴 |
| 単一ワード | 「〇〇」 | ブランド名のみ。意図が幅広く分散しやすく、CVRが低めになりやすい。 |
| 複合ワード | 「〇〇 料金」「〇〇 申し込み」 | 検討意図がより明確で、購買意欲の高い層を含むため、CVRが高まりやすい。 |
分類方法:効率化のヒント
検索語句の量が多い場合は、下記のいずれかの対応で効率的に作業を進めることができます。
- Excel:LEN関数 + SUBSTITUTE関数で「空白数+1」で語数算出
- AIツール(ChatGPT等):大量語句を「1語 vs 2語以上」で分類
- Pythonスクリプト:正規表現で語数判定
🔧ステップ3:グループ別指標比較と仮説検証
分類した各グループについて、以下の指標を算出し比較します。
✅CTR(クリック率)
✅CPC(クリック単価)
✅CVR(コンバージョン率)
✅CPA(顧客獲得単価)
💡分析結果の一例
整理したデータから、次のような傾向が見えてきました。
| グループ | CVR | 備考 |
| 単一ワード | 1.0% | 意図分散、低CVR |
| 複合ワード | 3.0% | 検討意欲層中心、高CVR |
CVRに3倍の差があるにもかかわらず、両者に同じ入札単価を設定していたため、CVRの低い「単一ワード」に過剰な広告費が投下され、結果として全体のCPAが高騰していたことが分かりました。
🔧ステップ4:キャンペーン構造と入札調整の最適化
仮説検証の結果を踏まえ、原因が特定できたら具体的な改善策を実行します。
- 単一ワードを切り出す
パフォーマンスが低い「単一ワード」の検索語句だけを新しいキャンペーンに移設します。
- 入札単価を個別に調整
単一ワードキャンペーンでは入札を抑え、無駄なクリックを制御します。
- 複合ワードへの配信を強化
CVRが高い複合ワードに広告費を集中させ、効率的なCPA改善を狙います。
ステップ3で、単一ワードのCVRが低く、広告費の非効率な投下が全体CPAを押し上げていることが明らかになりました。
💡 なぜこの現象が起きるのか?
特にブランド知名度が高い場合、単一ワード検索には購入以外の意図が混在します。一方、複合ワードの方が検討段階が進んでおり、コンバージョンに至る可能性が高いため、CVRも高くなる傾向があります。
【参考】分析結果の報告例

分析結果をチームやクライアントに報告する際の構成例です。
| 目的 | 指名検索KWにおける獲得効率の最大化を目指し、「単一ワード」と「複合ワード」での効果検証を実施。 |
| 検証内容 | 期間:2025年10月15日〜 対象:指名キーワードキャンペーン 手法:検索語句を「単一ワード」と「複合ワード」に分類し、各指標(CTR, CPC, CV数, CVR)を比較。 |
| 検証結果(単一ワード) | CPCを低く抑えられ、CV数も多いものの、CVRは複合ワードに及ばない。 |
| 検証結果(複合ワード) | CVRは高いが、当社の別サービス名との掛け合わせ検索による流入も多く、CPCが高騰し、結果としてCPAが悪化。 |
| 考察 | ブランドで複数サービスを展開しているため、「複合ワード」では対象サービス以外のニーズに基づく流入が発生し、広告効率を下げていると推察。「単一ワード」は、費用を抑えつつ一定のCVが見込めるため、入札の最適化が鍵となる。 |
| 今後のアクション | 「単一ワード」は独立したキャンペーンで入札を最適化し、CPA改善を図る。「複合ワード」は、サービス名との関連性が高いキーワードに絞り込み、無駄な表示を減らすことで効率を改善する。 |
まとめ
本稿では、指名キーワードのCPA高騰を「単語数」で分解し可視化する手法を紹介しました。単一ワードは意図が幅広くCVRが低いため無駄な広告費が増えやすく、複合ワードは購買意欲が高い層を捉えやすいもののCPCが高騰する場合があることが分かりました。この分類によって成果のムラを把握し、キャンペーン分割や入札調整で効率を改善できることが示され、実務や報告への活用も容易です。
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