この記事を書いた人
植田富大
取締役
新卒でマーベリック株式会社に入社後、広告配信プラットフォーム「Cirqua」の立ち上げメンバーとして従事。流通金額は30万円→3億円規模まで拡大し、株式会社駅探へ売却。2020年7月に株式会社SGPへ参画、その後2024年に取締役に就任し、Webマーケティング事業部を管掌。またWebマーケティングスクールでは、2年間で500名超に対して、Web広告の授業を実施。
目次
先月、一般キーワードの予算を月130万円から180万円へ増やした。CV数は212件から240件へ、28件増えた。平均CPAは6,132円から7,500円。許容CPAは8,000円で置いているので、ここだけ見れば増額は成功に見える。
ところが検索クエリ別に分解すると、増やした50万円のうち25万円が【サービス名単体・情報収集系】のクエリへ流れていた。この群で増えたCVは4件、追加1件あたり62,500円かかっている。一方、いちばん安く取れている【エリア名+サービス名】の群には5万円しか流れていない。
一般キーワードの増額が効かないとき、疑う先は金額ではなく【増やした分がどのクエリへ流れたか】である。そして流れ先を決めているのは運用者の意思ではない。一般キーワードを1つのキャンペーンにまとめている、その構造が決めている。
本記事では、一般キーワードを1キャンペーンに集約した状態がなぜ増額を空振りさせるのか、どこで分けるべきか、逆に分けすぎるとどうなるかを、モデルケースの数値で解説する。指名キーワードは別キャンペーンに分離済みという前提で、扱うのは一般キーワードだけである。
※本記事の数値は複数案件の傾向をもとに構成したモデルケースであり、特定の広告主の実績値ではない。
そもそも「広告グループ」「キャンペーン」とは?基本構造について
Google広告・Yahoo!広告などのリスティング広告で狙い通りの成果を出すためには、まずアカウントの階層構造を正しく理解しておく必要がある。
リスティング広告は、以下の4つの階層構造で成り立っている。

それぞれの階層には明確な役割があり、特に成果を大きく左右するのが「キャンペーン」と「広告グループ」である。
各階層の役割と設定項目
| 階層 | 役割 | 主な設定項目 |
|---|---|---|
| アカウント | 広告運用を行う最上位の枠組み | 支払い情報、ログイン権限、タイムゾーン |
| キャンペーン | 予算や配信ルールを決める大きな枠組み | 日額予算、配信地域、配信時間帯、言語、入札戦略 |
| 広告グループ | 「誰に」「何を」見せるかをまとめる単位 | キーワード、広告文(見出し・説明文)、最終ページURL(LP) |
| キーワード・広告 | 実際に表示される検索語句と広告素材 | マッチタイプ、アセット(広告表示オプション) |
キャンペーン構造における2つのルール
検索広告で運用者が直接指定できるのは、キーワードとマッチタイプ、入札戦略、予算である。実際に広告が出た検索クエリは、その結果として観測されるものだ。ここに構造上の制約が2つある。
【制約1】予算はキャンペーンにしか置けない。Google広告もYahoo!広告も、1日の予算を設定する単位はキャンペーンで、広告グループやキーワードに予算を割り当てる機能はない。
【制約2】同じキャンペーンの中では、どの語にいくら使うかを運用者が決められない。配分は媒体側の判断に委ねられる。
つまり、広告グループ単位でいくらメッセージを最適化しても、予算の流れる先まではコントロールできないということだ。キャンペーンは「予算を管理する枠組み」、広告グループは「広告(メッセージ)を管理する枠組み」と考えるとわかりやすい。
予算を増額した際に、運用者の意図とは「逆」に動く理由
先に述べた2つのルールがある状態で「一般キーワードをまとめたキャンペーン」の予算を増やすと、恐ろしい現象が起きる。増額した予算が、最も単価の高いクエリ(ビッグワード)へ優先的に流れてしまう点だ。
エリア名を含む語も、悩み・症状の語も、比較・検討の語も、サービス名単体のビッグワードも、全部1つの一般キャンペーンに入れた状態で予算を増やすと、増えた分の行き先は媒体が決める。運用者は「予算を増やす」という操作しかできない。
そして媒体が増額分をどこへ流すかは、【まだ取りに行ける表示機会がどこに残っているか】で決まる。安く取れている具体的な語は、たいていすでに表示機会をほぼ取り切っている。残っているのは検索数の多いビッグワードのほうだ。その結果、増額分は単価が高いクエリへばかり流れ、運用者の意図とは真逆の動きをしてしまう。

一般キーワードの中で、増分CPAは8.7倍に割れる
冒頭のモデルケースを、検索意図で4つの群に分けて増額前後を並べる。増分CPAは【(今期費用 − 前期費用)÷(今期CV数 − 前期CV数)】、追加した1件をいくらで取れたかを表す値である。
| クエリ群 | 費用(前) | CV(前) | 費用(後) | CV(後) | 増分費用 | 増分CV | 増分CPA |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| エリア名+サービス名 | 45万円 | 118件 | 50万円 | 125件 | +5万円 | +7件 | 7,143円 |
| 悩み・症状 | 45万円 | 62件 | 60万円 | 75件 | +15万円 | +13件 | 11,538円 |
| 比較・検討 | 20万円 | 20件 | 25万円 | 24件 | +5万円 | +4件 | 12,500円 |
| サービス名単体・情報収集 | 20万円 | 12件 | 45万円 | 16件 | +25万円 | +4件 | 62,500円 |
| 合計 | 130万円 | 212件 | 180万円 | 240件 | +50万円 | +28件 | 17,857円 |
許容CPAは8,000円である。増額後の平均CPA7,500円は許容内、しかし増分CPA17,857円は許容の2.2倍に達している。平均は既存の安い配信が分母を作るため、追加分の悪化を薄めて見せる。
群別に見ると、割れ方はさらに極端だ。エリア名+サービス名は7,143円で許容範囲内。悩み・症状は11,538円、比較・検討は12,500円で超過。サービス名単体・情報収集は62,500円、許容の7.8倍である。同じ一般キーワードという括りの中で、追加1件の単価が8.7倍違う。
そして増やした50万円の配分は、エリア名+サービス名に10%、サービス名単体・情報収集に50%。いちばん安く取れる群にいちばん流れていない。これが「一般キーワードは増やしても伸びない」の実体である。予算が足りないのではなく、予算が効かない場所に着地している。

なぜ、いちばん安い群に寄らないのか
理由は3つある。どれも運用者の努力不足ではなく、構造がそう動く。
1. CVRが高い「安い群」には、インプレッションの伸びしろがない
まず、「安い群」にはインプレッションの伸びしろが残っていないことだ。エリア名+サービス名のような具体的な語は、検索数そのものが限られる。表示機会のうち実際に表示できた割合(インプレッションシェア=表示機会の獲得率)が9割まで来ていれば、予算を倍にしても取れる量は1割強しか増えない。
2. 検索数の多い「高い群」には、予算を吸い込む在庫が余っている
次に、「高い群」には在庫が余っている点だ。サービス名単体のビッグワードは検索数が多く、上限がはるか先にある。増額分を吸い込む余力がここにしかない。
3. 混在した目標CPA(平均値)が、高い群への投資を正当化してしまう
最後に、目標CPAが混在の平均に引っ張られてしまうことだ。目標CPAはキャンペーン単位で置く値である。エリア名+サービス名の4,000円台が平均を押し下げているため、キャンペーン全体としては目標を達成しているように見える。媒体側は「まだ目標内だから取りに行ける」と判断し、単価の高い語へ配信を伸ばす。安い群の好調が、高い群への投資を正当化してしまう構図だ。
3つに共通しているのは、混ぜた状態では【安い群に寄せる操作】も【高い群を抑える操作】も打てないことである。予算も目標CPAもキャンペーンにしか置けない以上、群ごとに扱いを変えるには、群をキャンペーンとして切り出すしかない。
事例:一般キーワードの1キャンペーンを4つに分けた
同じ月180万円のまま、一般キーワードを4つのキャンペーンへ切り出した。増やしたのは予算ではなく、予算の置き場所の数である。
切り出しの設計はこうした。
- エリア名+サービス名は寄せ先とし、予算を50万円から110万円へ増やす。目標CPAは6,000円で置き、CVが積み上がっている語は完全一致で個別に追加する
- 悩み・症状は50万円で据え置きに近い水準。目標CPAは8,000円
- 比較・検討は10万円まで絞る。CVは出るが単価が許容を超えるため、上限で抑える
- サービス名単体・情報収集は止めずに10万円を上限として残す。ここで得た検索クエリは、次に完全一致で足す語を見つける情報源として使う
| キャンペーン | 分割前の費用 | 分割前のCV | 分割後の費用 | 分割後のCV | 分割後のCPA |
|---|---|---|---|---|---|
| エリア名+サービス名 | 50万円 | 125件 | 110万円 | 246件 | 4,472円 |
| 悩み・症状 | 60万円 | 75件 | 50万円 | 63件 | 7,937円 |
| 比較・検討 | 25万円 | 24件 | 10万円 | 11件 | 9,091円 |
| サービス名単体・情報収集 | 45万円 | 16件 | 10万円 | 6件 | 16,667円 |
| 合計 | 180万円 | 240件 | 180万円 | 326件 | 5,521円 |
CV数が36%増加・CPAが26%改善した要因分析
同じ180万円で、CVは240件から326件へ86件増えた。36%の増加である。平均CPAは7,500円から5,521円へ26%改善した。予算も、キーワードの数も、ランディングページも変えていない。変えたのはキャンペーンの分け方だけである。
効いた数字は1つだけだ。エリア名+サービス名へ追加した60万円が、CVを121件増やしている。この増額分の増分CPA4,959円は、分割前に一般キーワード全体で観測していた17,857円の3分の1以下である。同じ金額の追加でも、着地先を決めれば追加1件の単価は3分の1になる。
サービス名単体・情報収集は止めていない。上限10万円まで絞ったうえで残している。この群のCPA16,667円は許容を大きく超えているが、意図がずれた語ばかりではなく、まだキーワード化していない語が混ざっているためだ。予算の上限で損失を確定させながら、次に完全一致で足す語を探す枠として使う。全部止めると、伸ばせる語を見つける経路まで一緒に閉じてしまう。

どこで分けるか、4つの条件
キャンペーンを増やすこと自体は目的ではない。次の4つのうち、どれかに当てはまる群を切り出す。
【条件1】その群単体で自動入札の学習に必要なCVが出ているか
その群だけでCVがまとまって出ている。分けた後に自動入札が学習できる量が必要になる。実務上は月30件前後を一つの線に置いている(媒体の仕様ではなく運用の目安)。
【条件2】他のクエリ群と入札水準(目標CPA)を分ける必要があるか
他の語と入札の水準を分ける必要がある。同じキャンペーンにいる限り、入札は全体の目標CPAに従う。安い群の好調に引きずられてビッグワードが伸びる、逆にビッグワードの高さを嫌って目標を締めるとエリア名の配信まで止まる。どちらも混在が原因である。
【条件3】高いクリック単価(CPC)を払ってでも獲得に行く価値があるか
他より高いクリック単価を払ってでも取りに行く価値がある。CVRが明確に高い群には、平均より高い単価で入札する価値がある。混在させると平均へ引き戻されるため、高く払う操作そのものができない。
【条件4】予算の上限(蓋)を独立して設定したいか
予算の上限を独立して置き、増額分を吸わせたくない。条件1から3の裏返しである。今回のサービス名単体・情報収集がこれに当たる。止めるほどではないが、放っておくと増額分を吸い込む。予算という蓋を独立してかぶせるために分ける。
キャンペーン・広告グループを「分けすぎた」ときに起きる3つの失敗
「一般キーワードを1キャンペーンにまとめるのが正ではない」は、「細かく割るほど良い」ではない。分割の失敗は3つの形で出る。
【失敗1】データ不足で自動入札の学習が回らない
CVが月10件を下回るキャンペーンを量産すると、各キャンペーンで入札が安定せず、全体の効率がかえって落ちる。分けた結果どのキャンペーンも学習量が足りない状態は、混ぜていたときより悪い。
【失敗2】少額設定により広告配信が抑制される
1キャンペーンあたりの予算枠が小さくなりすぎると、1日の予算消化ペースが入札の機会を制限する側に回り、想定通りに広告配信が伸びなくなってしまう。
【失敗3】除外キーワードの管理コストが肥大化する
キャンペーンや広告グループの数が増えるほど、除外キーワードの管理コストも同じだけ増える。除外を入れる場所や設定方法を間違えると、止めたはずの語が別のキャンペーンから出続けてしまう。
判断の順序は、群の数を先に決めないことだ。まず群ごとの増分CPAを出し、扱いを変える必要がある群だけを切り出す。扱いが同じ群は同じキャンペーンに置いてよい。
適切なキャンペーン・広告グループの分け方手順
- 直近3か月の検索クエリを検索意図で群に分ける。エリア名+サービス名/悩み・症状/比較・検討/サービス名単体・情報収集、が出発点として扱いやすい
- 群ごとに、増額前後の費用とCVを出し、増分CPAを計算する。判定はキーワード別ではなく検索クエリ別で行う。キーワードは操作の単位、クエリは観測の単位で、混ぜると何で取れたのかが消える
- 許容CPAの線を引き、群を【寄せる】【据え置く】【上限を絞る】に仕分ける
- 寄せる群と絞る群をキャンペーンとして切り出し、予算と目標CPAを独立して置く。寄せる群では、CVが積み上がっている語を完全一致で個別に追加する
- 切り出した後、群ごとに増分CPAを再計測する。寄せた群の増分CPAが許容ラインを超えた地点が、その群の現在の上限になる
5の再計測まで含めて1周である。切り出して終わりにすると、寄せ先が上限に達したことに気づけず、同じ失敗が新しいキャンペーンの中で再発する。
よくある質問
【Q】一般キーワードをさらに分ける意味はあるのか。指名と一般を分ければ十分では。
不十分である。今回のモデルケースでは、一般キーワードの中だけで追加1件の単価が7,143円から62,500円まで割れていた。指名と一般を分けても、この8.7倍の差は同じキャンペーンの中に残る。分けるべき線は「指名かどうか」ではなく「増分CPAの水準が違うかどうか」である。
【Q】キャンペーンを分けると学習データが分散して不利になるのでは。
分ける単位がCV数の条件を満たしていれば、分散の不利より配分を制御できる利得のほうが大きい。判断材料はCV数である。月30件前後を満たさない群は切り出さず、既存キャンペーンに置いたまま除外キーワードで流入を調整する。
【Q】自動化が進んだ今でもキャンペーン分割は必要か。
必要である。自動入札が最適化するのは、与えられたキャンペーンの中での配分だ。どの群にいくら置くかという枠の設計は、依然として運用者側の操作として残る。自動化が進むほど、枠の切り方が結果を決める比重は上がる。
【Q】分割後、どのくらいの期間で判断するか。
自動入札の再学習を挟むため、切り出し直後の1〜2週間の数字では判断しない。判断は4週間分のデータが揃ってから行う。ただし予算の消化ペースと表示機会の獲得率は初週から確認し、想定と外れていれば予算配分だけ先に調整する。
最後に
一般キーワードの成果が伸びないとき、多くの現場で最初に検討されるのは目標CPAの引き上げである。しかしキャンペーンの構造が整っていない段階で上限だけを上げると、効かない場所へ流れる金額が増えるだけになる。
順序は逆だ。まず検索クエリを意図で分け、群ごとの増分CPAを出す。安く取れている群に予算が寄る構造になっているかを確認する。寄らない構造なら、寄るように分ける。それでも足りないと分かった時点で、初めて上限の引き上げが選択肢になる。
一般キーワードを1キャンペーンにまとめる設計は、管理が簡単で、媒体の学習にも有利に見える。しかし予算の行き先を運用者が指定できない構造でもある。どこに寄せたいかが決まっているなら、寄せたい群は分けて持つ。増分CPAは、その分け方が正しかったかを測る指標である。
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